方块 Quadrangle

Duration : 11:00-19:00 (月曜休)

Opening : 2022.11.05-2022.12.18

Venue : Room 108, No. 3, Lane 1363, Middle Fuxing Road, Xuhui District, Shanghai, China 200031

Tel : +86 (0)21 5496 1918

Web : https://www.shunartdesign.com

Artist : 上前智祐|Chiyu UEMAE

上前智祐(1920-2018)というと、2013年にBBプラザ美術館(兵庫県神戸市)で開催された「卒寿を超えて『上前智祐の自画道』」展が記憶に新しい。新しいといってももう10年ほども前の話だが、オープニングだったか会期中だったか、車いすをおされながら会場を訪れた上前の姿が思い起こされる。90歳を超えてもなお現役で制作を続けているという話を聞いて、制作に対する底知れぬ執念のようなものが、その小さな身体からめらめらと湧き上がっているようにみえた。

上前の制作といえば、おがくずを混ぜてマチエールを強調したタブローや、大量のマッチ棒を埋め込んだタブロー、糸を画面に縫いつけたタブローなどが代表的なものといえるだろう。とくに「具体美術協会(具体)」在籍時に発表した作品には大型のものが多いし、点描やマッチ棒の集積は、画面の外側にまで侵食するかのような強度を秘めている。その後展開した「縫い」の作品は書いて字のごとく、ひたすらに画面に糸を縫い付けてゆく制作スタイルで、画面にあらわれる縫い糸の連続性が独特の迫力を生んでいるのだが、完成までにかかる膨大な時間を思うと、見ている方まで気が遠くなってくる。

画面へのあらわれ方はさまざまであるにせよ、上前の作品とは、一貫して緻密な手仕事の蓄積によるものであると言ってよい。「こつこつ」「地道に」などという生易しい言葉では語りつくせないような、執念というような独特の気迫が画面から滲み出しているように思われてならないのである。

今回出品されているのは版画だが、上前が版画制作をはじめたのは1980年の勤務先退職後だという。1980年というと上前はまだ60歳だが、本人曰く、色彩やマチエールについて限界が来た、という危惧に基づくものだそうだ。それならば制作をやめるという選択肢もありそうなものだが、上前は制作をつづけることだけを念頭に、版画にフィールドを変えた。版画をはじめた1980年頃は墨画を手掛け、色彩からの急速な離脱が新たな展開を思わせるのだが、ここで展覧する2000年代の版画作品からは、ふたたび色彩回帰の傾向がみてとれる。モノクロームの世界に安住することなく、画面に色彩をふたたび取り込み、フォルムの集積や、繰り返しの構造による緻密な画面構成へと回帰しているのである。

退職からおよそ30年間、徐々に衰えていくみずからの身体と向き合いながら、ひたすらに制作をかさねる。それが油彩であろうが、縫いであろうが、立体であろうが、版画であろうが関係はない。ただあるのは制作に対する消えることのない猛烈な意欲と、執念である。こうした底知れぬ力強さが上前作品をささえている。

 

國井綾(大阪中之島美術館 主任学芸員)

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